女性を部下に持ったことがある方なら、その扱いにおいて、男性のそれとは異なる困難さを痛感した経験も多いのではないだろうか。
本書は、そういった困難をいかにクリアし企業目標を達成していくかについて、女性管理が一番難しいであろう風俗業界の管理職(店長)の立場から書かれた「女性の活かし方」の実践的ノウハウ本である。
本書により風俗業界の内情がよく分かるのはもちろんのこと、そのリアルな経験から浮き彫りにされる「女性の本質」を、生きた知識として得ることができる。
以下、本書の概要や、風俗店のバックオフィスで働く私の経験をからめた感想などをまとめてみたい。
本書の概要
本書は、風俗業界でコンサルタントとして活躍する「モリコウスケ」なる人物が、「女性マネジメント」というテーマについて多数の風俗店長にインタビューをし、それらをまとめる予定だったところ、その中の1人の店長(宮本さん)の話がもっとも面白かったので、結果的にそのほとんどが宮本さんの話をもとに書かれた、という経緯のある作品だ。
この共著者ともいえる宮本さんは、早稲田大学教育学部を卒業後に生命保険会社などでサラリーマンを経験した後、独立。
風俗をやろうと思ったのは「小資本で独立できることを知ったから」。
問題は「ボクはむかしから女性の扱いがヘタだった」こと。
そこで独立にあたり必死で女性心理について勉強し、それらを実践して得られた机上の空論ではない生きた知識をまとめたのが、本書の主な内容である(全7章)。
以下各章の概要を整理する。
まず第1章において「風俗で働く女性の特殊性」についてリアルな体験談がまとめられている。
具体的には「無断欠勤」「離職率の高さ」「コミュ障」「嘘つき」など。
ただこれらは仕方のないことであり、受け入れるしかないという懐の広さが、本書の節々から感じられる。
第2章では、著者が独立にあたり猛烈に勉強したという「女性心理」についての一般論がまとめられている。
一般論なのでほとんどが知られた内容だが、例えば「女性は権威に弱い」というのは今回初めて知った(後述)。
第3章では「売れる女性の見分け方」について
風俗業界では見た目の良し悪しが必ずしも人気と連動しないことなど。
ではどういった女性だと人気が出るか?
著者の答えは個人的に目から鱗だった(後述)。
第4~7章は本書のテーマである「女性の活かし方」実践編となっている。
・女性との距離感(4章)
・女性の指導法(5章)
・気持ちよく働かせる方法(6章)
・正しい叱り方(7章)
これらの章では、風俗業界に限らない一般的かつ普遍的な「女性管理ノウハウ」がまとめられている。
本書の感想
本書の中から、個人的に印象に残った部分について感想を述べる。
女性は権威に弱い
著者は女性に関する一般論として「権威に弱い」ことを紹介している。
これはほとんど本能的なものだという。
具体的には「誰が力をもっているか」を敏感に察知し、その人の言うことは聞くが、そうでない人の言うことは聞かないとのこと。
これは特に女性だけに限らない気もするが、女性の方がその度合が強いということだろうか。
この点に関しては以前、生命保険会社で生保レディを管理している友人から同様の話を聞いたことがある。
上司が生保レディ達のいる前で彼のミスをケチョンケチョンに詰めるので、彼女たちが彼の言うことを聞いてくれなくなった、と嘆いていた。
詰める側の上司は、それにより更に権威を高められ、個人としては仕事がやりやすくなるかもしれない。
しかし組織全体としては、逆に生産性を落としているのではないだろうか。
このような部下の権威を貶めて管理したつもりになっている管理職は、その勘違いに気づくべきだ。
人気が出るのはこんな女性
風俗嬢で人気が出るかどうかは、容姿の良し悪しよりも「リアクションの差」であるという。
これは非常に納得。
風俗に限らず、また男女問わず、魅力的な人間には「リアクション能力」が備わっていると思う。
打てば響く人間性。
そういう人間は相手を気持ち良くさせるので、どんな世界でもうまく立ち回れるのではないだろうか。
問題はこの能力をどうすれば高められるか。教育できるか。
以前、あるお店の人気嬢に入ったとき、そのリアクション能力に圧倒されたことがある。
彼女は入店時の講習で、店長からこう言われたのだという。
「○○ちゃんが接客を楽しめば、お客さんも楽しくなる」
私はこの言葉が、彼女のリアクション能力を大いに高めたと思っている。
何事も楽しもうとする気持ちは、自然と態度に表れるもの。
そしてこの自然に表れる態度が重要であることは、どんな分野においても言えることである。
とにかくアナタから話しかける。疎外感を与えない。
これには個人的に心当たりがある。
以前、女性ばかりのメールオペレーターチームを管理していたときに、その中の一人からこんなことを言われた。
「私、○○さんに嫌われてますよね」
彼女はチームの中で唯一責任感が強く勤怠も安定していたので、私は彼女のことを嫌うどころか、むしろいつも心の中で感謝の気持ちを抱いていた。
そしてその気持は、私の態度から自然と伝わっているだろうと思っていたが、まったく逆だった。
言葉にしてしっかり伝えないと女性には分からないのだと、その時痛感した。
「いつも頑張ってくれてありがとう。本当に助かっているよ」
この一言を疎かにしてはいけない。
期待をかけてあげる
これも全く同意。
人間は、他人が自分のことをどう見ているかという他者を通した自己イメージに影響を受けやすく、そのイメージを高めてあげるためにも褒めて期待するべきである。
一時ブームだった「褒めて伸ばす」が最近はどうも批判されているようだが、その内容をよく見ると「褒めて伸ばす」の意味が誤解されているように思う。
「褒めて伸ばす」というのは決して「叱らない」ということではない。
大事なのは「相手の自己イメージを高めてあげる」という視点・目的であり、これを意識していれば自然と褒めることが多くなるはずなのだ。
「○○ちゃんは素晴らしい」と言われた女の子が、その期待を裏切りたくないと感じるのは当然のことである。
まとめ
本書は「風俗で働く女の子のマネジメント」を軸に、それが世の中一般の女性マネジメントにも通じる、という論理でまとめられたものである。
これはその通りだと思うし、それどころか本書の内容は男性のマネジメントにも通じるのではないか、という感想を持った。
結局は「仕事で関わる人間全員に対する気づかいが重要である」ということであり、それは相手が女性であろうが男性であろうが、また部下であろうが上司であろうが変わりはない。
相手が誰であろうが
「積極的にこちらから働きかける」
という気遣いが重要なのだ、ということに気づけたことは収穫だった。