プロフィール
日向杏奈(25歳)入社2年目。
現在シンデレラグループで女性キャストのレタッチを担当。
――この仕事への転職のきっかけは何ですか?
前職では事務をしていました。
そこを辞める際に漠然と「写真関連やPhotoshopを使った仕事がしたい」と考えていて、とりあえずで2~3ヶ月ほどPCスクールにてPhotoshopとIllustratorを習っていました。
そのタイミングで知人から久しぶりに連絡が入り「レタッチャーをやっている」という近況を聞いて、そんな仕事あるんだと興味を持ったのがきっかけでした。
――風俗というジャンルを選んだ理由は何ですか?
特にありません。たまたま風俗業界だったという感じですね。
――風俗というジャンルに携わることに抵抗はありませんでしたか?
普段は下ネタとかそれほど得意ではないのですが、仕事でのアダルトは驚くほど気にならない自分がいました(笑)。
ですので抵抗はほぼなかったです。
元々レタッチの中でも人物レタッチをやってみたいと思っていたので、その点ではアダルトはむしろメリットだと感じます。
がっつりスキルをつけたい方には向いているジャンルじゃないかと思いました。
――以前は風俗という職業にどんなイメージを持っていましたか?
無縁だったので特別考えたことはなかったですが、強いて言えば泥臭いイメージがありました。
――実際に働いてみて感じたことは?
何に対しても熱量の高い人が多いことが、これまで勤めていた会社にはない印象だったので新鮮でした
みんな妥協をしないので、自分自身もそれにしっかり向き合って応えようと思えます。
それと人との関わりが大事だなと感じました。
――周囲の人たちは風俗関係の仕事に就いている事を知っていますか?
気心の知れた友人と家族は知っています。
――周囲の反応はどうですか?
マイナスな反応はなかったです。
風俗レタッチというジャンルに対して良い意味で面白がるか『別に風俗業界だって立派な仕事じゃん』って理解を示してくれる反応をもらえましたね。
母親には『それってお店に写真が並んでる何とかマジックっていうあれでしょ?面白いよね~』って言われました。(笑)
――すばらしいお母様ですね!
「はい(笑)」
――1日の仕事の主なタイムスケジュールを教えてください。
【早番】11:00-20:00
10:45-出社、カメラマン/ヘアメイクの出勤確認、メール・写真依頼の確認
11:00-朝礼、写真対応
14:00-休憩
15:00-写真の再依頼・アップロード対応
電話で店舗スタッフと再依頼内容の確認等、やりとりをすることも。
20:00-終礼、カメラマン/ヘアメイクの退勤確認、退社
【遅番】14:00-23:00(※土曜・祝日は13:30-22:30 日曜は遅番対応なし)
13:45-出社、メール・写真依頼の確認
14:00-写真対応
17:30-休憩
18:30-写真の再依頼・アップロード対応
20:00-終礼
23:00-カメラマン/ヘアメイクの退勤確認、退社
最終的には内面が大事
――写真修正は必要だと思いますか?
場合によっては必要だと思います。
理由は皆仰ってる通り身バレ防止のためです。
友人や彼氏にバレるのが怖い・気にしているという女の子もいるようなのでやむを得ないかなと思っています。
それともう一つは【見た目】の問題があります。
一度ご利用していただき、接客対応の評価が高かったりする場合は、ルックスの問題はそれほど重要ではないそうですが、初めて指名する場合などは、どうしてもルックス重視になってしまう傾向があるので、どうしてもそれなりに修正をせざるを得ない場合があります。
でも最終的には見てくれより内面が大事ということですね。
――写真修正はどこまでが許容範囲だと思いますか? 日向さんの基準で結構です。
身バレ問題以外に関しては、本人感が残っていることが大事だと思います。
チャームポイントを活かし面影が残っていれば、本人を目の前にした時『あ、この人だ』っていう、ちょっと安心感みたいなのがあると思うんです。
全く別人にしてしまう修正は今後はどんどん廃っていくと思います。
――確かに長い目で見ればお店にも女性にもデメリットしかないように思います。今後の風俗の新しい写真のあり方についてはどのようにお考えですか?
これからはスタイルが良い子であれば無理に顔は出さずにパーツ写真をもっと見せたり、あとヘアメイクなど他の部分で補ったりすることで、自然体な写真を載せることができればそれが理想かなと思っています。
――電話が鳴る写真、鳴らない写真の一番の違いは何だと思いますか?
修正の有無に関わらず写真から出る女の子の雰囲気だと思います。
人柄などの内面って写真からでも結構伝わるものです。
なるべく最低限で済ませる
――女性の加工写真は、最近ではネットなどで目にする機会が多く、誰でも容易に見抜けるようになってきています。風俗の場合はそれでもやらざるを得ないわけですが、修正写真特有の違和感を感じさせないよう気をつけている点はありますか?
私は【なるべく最低限で済ませる】ことを心掛けています。
全身加工や写真映えする色調補正のできるアプリの力にはびっくりしますが、私達のレタッチはリアルさを出さなければいけないので全く別次元の作業だと思っています。
よほど肌が荒れていたりしなければ、肌質を殺すような余計な補正は掛けません。
本来あるべきもの(頬の影・笑いジワ・首や体を捻った時にできる肉寄り等)を消しすぎないようにするなど。
また色調補正に関しても好みを出さないことや変に癖をつけないように気をつけています。
顔はいじっていなくても、写真の明るさや色味を変えただけで修正感が出ることもあるので。
――うっかり本人のレベルを超越してしまうこともありますか?(笑)
あります。
『すごく良い修正なんですが可愛すぎるのでもう少し本人寄りに戻して良いです』と店舗スタッフさんに複雑なことを言われたこともあります。(笑)
――でもそれはある意味、良心的なお店であるといえますよね。
考えすぎると自分では分からなくなってることがあるんですけど、『そんなに違う?』と思って一日置いて、改めてデータを開いて見ると『確かにこれはやりすぎた』っていうことがたまにあるので、他者の目線って本当に大事なんですよね。
――普通とはちょっと変わった依頼なんかもあるんですか?
そういえば『今上がっている面接写真が可愛すぎて電話の鳴りが止まない。他の女の子に興味が向いてくれないので少し不細工めにしてください』っていう逆パターンな依頼をもらったこともありました。
その女の子は本当に可愛かったので、殆ど何もしていなかったんですが、ただ可愛いけば良いってもんじゃないんだなってその時は勉強になりました(笑)。
――ちなみに写真修正で一番多用するツールは何ですか?
歪みツール・パッチツール・コピースタンプツールは三種の神器ですね。
歪みは顔や体型調整に、パッチ・コピースタンプは肌調整に使います。
――日向さんにとって「良い仕上がり」の写真とはどういう写真ですか?
未だに答えが分からないことですが【電話が鳴るところまでいって】その結果【良い仕上がりの写真になる】のかなって今は思っています。
【上手く修正できた】という点で言うなら、あとはもう自分自身で納得するしかないですね。
ほとんどの女性とは実際に会うことができないので、【実際に会ったらこんな感じかな?】っていう自然なラインを意識するしかできないので、それが出せたと思ったら上手くできたと思うようにしてます。
――修正作業をしていて一番難しいと感じることは何ですか?
本人に会ったことがない写真がほとんどなので、写真写りによる見え方の違いを無くすことが難しいですね。
そもそも角度などによって変わるのは当たり前なので気にすることもないのですが、丸顔なのがある写真では面長に視えたりすることもあるので微調整に迷いますね。
写りだけでなく、髪の毛を耳に掛けるか掛けないかでも印象が変わるので悩みどころです。
――修正で一番「困ってしまう写真(原版)」とはどんな写真ですか?
身だしなみの整っていない写真ですね。
例えば髪の毛の乱れが酷かったりすると、地味に手間が掛かってしまいます。
そういう意味でも撮影前の身だしなみというのは非常に重要です。
――撮られる側(風俗嬢)の意識はどうなんでしょうか?
正直、美意識の低い女の子が時々います。
撮影なのに全くメイクをしていなかったり、ボサボサな髪のまま来たり。
その辺りはこちらでも事前に身だしなみチェック表など作ったり対応していかなかればならない部分でもあるかもしれません。
最低限の身だしなみをしっかりするだけで、写真写りも変わるのでどうしてもヘアメイクが間に合わない時は、特に気を抜かずに意識してほしい部分ではあります。
実際、容姿の問題ではなくその辺がしっかりしている子は、写真からでも伝わりますし色調整程度でとっても可愛くなるんです。
写真・修正は女の子のそういった意識ありきだと思っています。
最終的に内面が大事ですが、まずはビジュアルから入るというのも事実です。
アイドルとかと一緒じゃないでしょうか。
――レタッチの仕事で普段から気にかけていたほうが良いことはありますか?
入社したての頃は道行く女性がみんな風俗嬢に見える職業病みたいなのが発症してました。
通行人でも【この人はここをこうしたら盛れる】とかイメージすることは案外大事かもしれません。
あとテレビや広告で色んな芸能人を見ること。
今だから言えるんですけど私、人物レタッチがしたかったわりに入社するまで、人の顔面がどうとかってあまり関心なかったんです。
みんなが言う「あのアイドルが可愛い」だの「格好良い」だのもあんまり、というかそもそも芸能人への興味が薄かったのでよく分からなくて。
その関心の無さが災いしたのか、たまに『〇〇(アイドルなど)に寄せてください』という依頼がくるんですけど、最初の半年か一年くらいは特徴もちゃんと掴めないから全然寄せることができなくて…その依頼が来るたびに頭抱えてました。(笑)
それからはテレビ番組や街中の広告に目を向けるようになって『このアイドルはキレイ系だな』とか『ちょっと三白眼(黒目が小さい)だな』って特徴を考えるようになりましたね。
今では完璧に寄せられているのかと言われたら分からないですけど、女の子との似ている部分や調整すれば近づくポイントなどは見極められるようになったと思います。
本当に今更ですけど石原さとみがなぜ『なりたい顔 No.1』なのか、自分なりに分かった時はちょっと感動しました。(笑)
女性視点のメリットは「繊細さ」
――女性からの視点は、男性が利用する風俗の写真においてどのように活かされていると思いますか?
【可愛い】【エロい】については男性の視点が強いと思いますが、繊細な部分については女性の視点が強いように思います。
修正でメイクを加えたり、その女の子に似合うヘアスタイルや下着の色・種類を考察したり。
女性の感性は写真により華やかさをプラスすることではないでしょうか。
――以前男性レタッチャーの方にインタビューした際、「女性は美(可愛い)を追求する傾向にあり、男性は自分の欲望を追求するような気がします」と仰っていました。それについてはどう思いますか?
レタッチャーそれぞれの考えや感性があるのでその通りだと思いますし、正解はないとも思っています。
一レタッチャーとして言うなら私は【美しさ】や【可愛さ】より【その女の子の人柄や個性】を引き出すことを大事にしています。
――日向さんの「女性をエロく仕上げるコツ」は何ですか?
身体のメリハリを意識することですね。
特にヒップは強調させて、ライティングに気をつけつつ、胸とお尻に光を加えてより立体感も出すようにしています。
それとエロティックな唇してる人は艶感つけたりとピンポイントでキレイに仕上げるようにしています。
――顔の系統によって得意な顔、不得意な顔みたいなものはあるんですか?
ある程度数をこなしていくと、そういうのはでてきます。【可愛い系】とか【大人め系】とか。
――ちなみにどういう系が得意ですか?
私はどちらかというと可愛い系が得意です。
個性やチャームポイントを生かす
――この仕事で壁にあたったことはありますか? またそれをどう乗り越えましたか?
修正に慣れてきた頃、上司から
「日向さんは修正に癖がないのが良い。プラスαを加えられるようになれば、更に良くなる」
と言われたことがありました。
癖がないのが悩みというのも変ですが、自分にとってのプラスαが何なのかが分からなくて、しばらくは考え込みながら時間も余計に掛かって仕事をしていた憶えがあります。
撮影現場で女の子と接してからレタッチに対する向き合い方も変わって、私にとってのプラスα・強味は女の子の個性や良い部分(チャームポイントとか)を活かそうとすることだと自分なりに答えを出せてから、悩むことがなくなりました。
癖や得意技術だけが全てじゃないのかもしれないです。
――写真は奥深い!と実感できたエピソードがあったら教えてください
リアルマジック(?)が起きたことがありました!
前に私が修正を担当した女の子がその数ヶ月後に再撮影を行ったんですが、その原版(修正前の写真)を見たら、以前私が修正した写真とほぼ同じルックスになっていた時には度肝をぬかれました(笑)。
顔だけでなくスタイルも良くなってて…。
――そんなことがあるんですか!
何が影響したのかは実際のところ分かりませんが、自分のいる環境(お店)がモチベーションや美意識に繋がって、女の子自身も変わるんだなって考えることができました。
撮影現場にも行くことも重要
――レタッチ以外にはどういうお仕事をされていますか?
動画編集をやっています。写真とは違って動いているものは見ていて楽しいですね。
最近は、店舗と外注カメラマン・ヘアメイクへのメール対応(撮影スケジュールの連絡)も任せてもらうようになりました。
――撮影現場に同行することもあるのですか?
あります。撮影現場に行くことは非常に重要だと感じます。
ある日私が女の子の撮影現場に同行した際、その合間にちょこっとお話したんですが、その女の子の人柄がすごく良くて、それだけで『あー可愛いな』とか『めっちゃイイ子だな』って思ったんですね。
後日その子の修正をしたんですけど、ふと『こういう雰囲気の子だったから…』って今まで考えもしなかったことが無意識に浮かんだんです。
――確かにその人の魅力を伝えるには、実際に会うというのは非常に重要ですよね。
はい。時々、店舗スタッフからの依頼で『この子はこういう人柄で…』『実物はもう少しこうなんです』って本人についての詳細をもらうこともあるんですけど、それまでは正直「私はその子に会ったことがないしそんなこと言われても…」みたいな感じで相手の望んでいる雰囲気を出せているか不安でした。
でもそこで、写真の向こうの女の子に対しても、その良さを伝えて下さる店舗スタッフに対しても『自分は今まで人と向き合えてなかったんだな』って気付くことができました。
それ故に想像力も乏しく、つまづいてしまっていたんだと思います。
それからは今まで以上にレタッチが好きになりましたし、修正する上で一人一人をイメージしながら良さを見つけていくのが楽しくなりました。
――2020年の東京オリンピックが迫っている中、外国人向けの修正(顔やスタイルを外国人好みに寄せる)は必要だと思いますか?
特に必要ないと思います。
変にいじっても違和感が出るかもしれないので。
女の子の内面・サービスや対応が大事ですし、それがおもてなしとして一番になるんじゃないでしょうか。
そこが日本人ならではの強味だと思います。
――風俗のレタッチャーは将来ロボットやアプリに仕事を奪われると思いますか? 実際スノーなどの加工アプリはすでに風俗でも多用されています。
ないと思います。
どんなに早く加工できたりしても、細かい調整や望んだイメージを表現することは、【感性】を持った人間にしかできないと思っています。
デザインにも接客にも言えることではないでしょうか。
――この仕事をやっていてよかったと思う瞬間はどのような時ですか?
自分の修正を女の子に喜んでもらえていたり、鳴りが良い・ご予約満了となりましたとのご報告、可愛いとのお言葉を店舗スタッフさんから頂けた時はすごく嬉しいです。
――最後に、この仕事はどういう人が向いていると思いますか?
個人と向き合うことを大事にできる人、他人の良いところを見つけようとすることができる人は向いていると思います。
ただ可愛く・エロくして終わりでは惰性になってしまうと思うんです。
『これでいいや』は技術もクオリティーも成長がストップしてしまいます。
その先、女の子一人一人の長所を見つけて『ここを引き立たせたい』というところまでいける人は、必然的に伸びていくはずです。
写真を完成させる瞬間に『この子はこれがベスト!』っていうハマる感覚を持ち続けていられるのが良いですね。