SEO(検索エンジン対策)担当の私は最近、ある人気キャストの写メ日記を読んで非常に感銘を受けた。彼女は常日頃から、鏡を見ながら笑顔の練習をしているのだという。
「接客の基本は笑顔である」というのは、教科書的でもはや使い古された教訓だが、この当たり前のことの実践はなかなか難しい。初めてのお客様の前ではどうしも緊張してしまうだろうし、緊張すればどうしても顔は引きつってしまう。
そこでどんなお客様に対しても自然な笑顔を”反射的に”出せるよう、常日頃から意識的にトレーニングする必要があるところ、それを実際に結果を出している人気キャストが粛々と実践していることを知り「やっぱりそうか!!」と思わず手を叩いてしまった次第である。
私が客の立場なら、たとえサムネイル写真とは別人が来たとしても笑顔さえあれば「まあいいか」と許せるし、ましてやサムネイル通りの女性が来ればリピート必至だろう。
つまり風俗のような1対1の対面接客においては特に、笑顔のスキルが正に売上を左右する重要な要素と言っても過言ではなく、それは人によってはある程度意識してトレーニングする必要があるものだと思う。
もちろんこれはスタッフにも当てはまる。スタッフが笑顔なら、お客様はまた来店したくなるだろうし、キャストはもっと出勤を増やしてくれるかもしれない。
笑顔のトレーニングといえば、かつて私自身が経験したこんなエピソードがある。
私は数十年前ちょうど20歳のときに、当時銀座近隣にあった大型ディスコでウェイター兼バーテンダーとして働き始めた。
ディスコのスタッフといえば、客の女性をナンパし放題で酒池肉林の生活を送れるというのが当時のもっぱらの噂で、生粋の童貞だった私は希望を胸にアルバイトの門を叩いたのだった。
そして実態は正にその通りで、20名程のスタッフにはそれぞれの名前がついた〇〇ギャルと呼ばれる固定客がついていて、仕事もプライベイートもやりたい放題だった。
「俺も早く◯◯ギャルがほしい・・・ハァハァ」
と最年少の私は思い、まずは外見からと、先輩たちのマネをして日焼けサロンに通い、シャツを開襟して露出した褐色の胸に金のネックレスをぶら下げ、香水をふりかけ、髪を茶髪にし、前髪をドライヤーでガッチリ上げ、ジャケットには肩パットを入れ、タバコはパーラメントにするなどして武装してみた。
が、いまいち結果が出ない。
そんな私から3ヶ月遅れで入店した同期に、のちにホスト業界で伝説となるA君(仮名)がいた。
今でもA君がもたらした衝撃は忘れられない。
正に漫画の世界。夜の大谷翔平。
私はあの時歴史を見たと思った。
A君が行くところに女性が群がる。
たとえA君がバイキングの洗い場で皿洗いをしていても、洗い場の外に大勢がたむろする。
先輩方は面白くないから彼をできるだけ目立たないポジションに配置するが、女性たちは彼がどこにいてもついていく。
そして彼に会いたくて何度もお店をリピートする。
彼は私と同じ学生アルバイトで同い年と境遇は似ていたが、肌は白かった。
胸ははだけていなかったし、金の飾り物もつけていなかった。確か香水もつけていなかったし、タバコも吸わなかった。
彼の何があそこまで女性たちを惹きつけるのだろう?
確かに見た目はカッコいいけれど、もっと重要な何かがあるのでは?
と陰からじーっと観察していたら、ふとあることに気がついた。
彼はどんなときも「口角が上がっていた」のである。
そのことに気づいて以来、私は夜な夜な手鏡を片手に口角を上げるトレーニングをした。
とにかく必死だった。
そして不思議なことに顔の表情筋を動かしていると、気持ちも明るくなってきた。
童貞の鬱屈から開放される日も近いと感じた。
その頃先輩から
「お前最近、腹話術の人形みたいで気持ち悪いよ」
と言われたが、それくらい極端に口角上げを意識していた。
そして今でも忘れない1994年秋。
私はついにブレイクスルーを果たし、◯◯ギャルを量産していくことになる。
本当に一気に変わった。
私がニコッと笑顔で酒を手渡した時にお客様の女性たちが見せた一瞬のときめいた表情が、今でも心に焼き付いている。
笑顔は接客の魔法だと思った。
図らずも私にブレイクスルーのきっかけを与えてくれたA君は、1994年の冬に歌舞伎町へ進出し、その後夜の世界では伝説の男となった。
ネットの情報によれば、夜の街を舞台にした某漫画のモデルはA君だそうである。