今はももクロですよ!
先日ここ何年か振りに復店した或る女の子のお言葉。以前在籍していた当時はAKB48が好きだったので「相変わらず好きなんですか?」と水を向けたところ、そんな返事がきました。
そのアイドルオタクの「模範解答」に私は少しガッカリ、その余りにも「言いたがり」な言辞をこれまで何度耳にしてきたことか…。
最近は若年層を中心にテレビを観ない人が増えたそうです。
これ自体は今さらの話なのですが、最近特に顕著なのが「テレビを観ないと言いたがる人」が増えたこと、これは面白い傾向かも知れません。
その黎明期に「一億総白痴化」と揶揄されもしたメディア、観ないことを宣言したがる人など(私を含め)は昔からいたのですが、しかし最近のそれは少し事情が違うようです。
その通俗さから自らを切り離すために宣言するのではなく、テレビを観るという状況が連想させる「孤独」から自らを遠ざけるためにそうするのだとか。
つまり例えば1日に4時間テレビを観ると言うことは、その4時間を孤独に過ごしていると言うのと同じ「テレビを観ない」は「孤独ではない」という間接的な表明の一種なのです。
一昔前ならむしろテレビは孤独を回避するための道具、例えば皆が或る共通のテレビドラマを観て職場なり学校なりでその話題に花を咲かせる、そのドラマを観ていないと話題に付いていけなくて孤独に陥る、そんな感じでした。
そして私のような捻くれ者は、そのドラマが面白いかどうかという事とは無関係に、単に他者との共通項を得る為にのみそれが消費されているという状況に違和感を覚えて益々テレビから遠ざかった、と。
では、そのテレビを観ない彼/彼女らは替わりに何をやっているのかと言うと実はネットをやっているという、こちらの方が余ほど陰気で根暗な作業のようにも思えるのです。
しかし、この事実を隠すことは決してないのだとか。
その発達した双方向性によりネットはもはや孤独なイメージを持ち得なくなったことがその理由のよう【ネットをやっている=友達が多い】今どきはそんなイメージを持つ人が多いようです。
昔のようにテレビを介して無理矢理に共通項を得る必要もなく、予め設定された共通項に直接的且つ同時間的に介入できる。
これはツールの進化を待つまでもなくインターネット黎明期から言われてきたことでもあります。
今どきの若者には「欲がない」と感じる年配者が多いのだとか。
ここで言う「欲」とは立派な会社に入って出世して(人より)立派な家に住んでより高級なクルマに乗って綺麗な奥さんをもらって…、のようなそれ。
特に奇異に感じるのは件のアイドルオタクのような社会の片隅で、実の伴わない何モノかに大金をつぎ込むような人種(まあ、自身で稼いだおカネを何に注ぎ込もうが勝手だという了見は持ち得ていても)それが社会的な何か、ステイタスシンボルを得るような行為(=欲)とは縁遠いことが不思議でならないようです。
確かに高度成長期やバブルの時代に、多くの人が抱いた「夢」など幻想に過ぎないという諦念に捉われた若者が多いのは事実なのでしょう。
しかし、彼/彼女らに「欲がない」という発想は必ずしも正しいとは言えません。
解かり易いのがソーシャルゲームの課金システム。
少し前には社会問題にもなったそれはユーザーの「欲」を逆手に取った巧妙なシステムです。
そのゲーム内で如何に自身を他者から差別化するか、ソーシャルゲームに嵌って湯水のように課金してしまう人種は皆そのような「欲」に駆られています。
つまり、その小さなコミュニティの中でのステイタスを得るのに躍起になるわけです。
これが高度成長期の「夢」がカタチを変えたものに過ぎないのは言うまでもないことです。
アイドルオタクも然り、その界隈でのステイタスを得るための「欲」にまみれた人種であることに何ら変わりはありません。
随分とスケールが小さくなったと思うかも知れませんが、そもそも嘗ての「夢」にしても内閣総理大臣や上場企業の社長を目指すのでもなければ、所詮は同じ職場や学校、親類縁者と言った小さなコミュニティの中で自身を差別化していたに過ぎません。
当時と比べて何が変わったのかと言えば、自身が帰属し得るコミュニティが多種多様化し、その往来が比較的自由になったこと。
独自の価値観を持って生きている人など昔からいましたが、それは同時に孤独をもたらす生き方でもありました。
しかし、今は主にオンライン上に形成された小さなコミュニティが人を孤独から遠ざけてくれます。
だから皆安心して「テレビを観ない」のです。
最近何かと「言いたがり」な人が増えたように感じるのも、自身が属するコミュニティの外で迂闊なことを口にしてしまう人が多いからなのだと思います。
特定の価値観や無用な共同幻想に強迫されて生きる必要がないのは多分幸福なことです。
或る調査によると20代の日本人男性の約40パーセントが異性との性交渉の経験がないとか。
俄かには信じられない数字ですが、今どきならむしろあっても不思議はないのかも知れません。
何故なら脱童貞を強迫するコミュニティから逸脱することなど容易ですから…。
さて、風俗業界はどちらかと言えば旧来的な「夢」を持った人が多く集まるイメージもあるのですが、今どきは必ずしもそうではありません。
油分の多い出世欲を持った人達は会社に大きなパワーをもたらしてくれます。
もちろん大歓迎なのですが、それは「それほどでもない人たち」の居場所を無くしてしまうものでは決してありません。
人それぞれに価値観を持ち人生にはそれぞれのペースがある、これを軽視してしまっては今どき良い人材を得ることなど到底できないでしょう。
否、証拠ならここにあります。
仮にも品川ラズベリーで店舗責任者を勤めている私がこんな文章を書いているのですよ?
業界特有の価値観に強迫されていたらこんな文章など決して書けませんから。