この時期よく耳にする知られた俳句ですが、これがその数週間後に絶命した松尾芭蕉が病床で詠んだ句であると知っている人は案外少ないのかも知れません。従って、世間的なイメージとは違って、とても物悲しい句、芭蕉は深まる秋に自らの晩年を知ったのでしょう。と、風俗業界にその身を投じつつ芭蕉の俳句を鮮やかに論じてみせたりするそんな私は品川ラズベリーで責任者を勤めさせていただいている者です。
この感傷的な季節に限らず、私たちはいつでも「隣は何をする人ぞ」と気にかけています。それは勿論、近隣で競合する「同業他店」のことです。メールマガジンを購読しブログをチェックするのは当然のこと、女の子の出勤人数、新人入店やイベントの状況等々を毎日隈なくチェック、それは重要なルーチンワークの一つでもあります。そして、そんなふうに日々チェックを重ねていると、実は、自身が関わっているわけでもない他店の状況が手に取るように分かるようにもなってくるもので、精度のほどは定かでないにせよ、日々の売上すら具体的な数字として浮かんできもしてしまいます。ウエブサイトを見ているだけで何故そこまでの状況が読めるのかと言えば、私たちもまた同様の「動き」をサイト上で展開しているからに他なりません。これをご覧いただいている方は、例えば、日々変化する「在籍表」の並び順の意味、それが企図する効果を理解されていますか? 気付かない人も多いのかも知れないそんな微細な変化の中にも、それなりの「戦略」が隠されているのがこの業界、決して侮ってはいけません。
ともあれ、そんな些細な変化の中に「隣は何をする人ぞ」と日々アンテナを巡らすのも重要な業務の一つ、自店に有効な戦略を得るには必須とも言えます。
さて、ここからが多分本題。そんなふうに日々チェックを重ねる「お隣さん」にその要を感じなくなってしまうことがここのところ頻発しています。何の変化も生じなくなった挙句にある日突然サイト自体が消滅してしまっている…。理由は様々なのでしょう。それをどうこうと詮索してここに書く気もありません。芭蕉もそう感じたのかも知れない深まる秋の物悲しさを、私もまた実感している、と、そんな事実だけを述べるにとどまりましょう。「ウチもあんまり良くないけど、あそこはもっと酷そうだなあ」なんてテイの良い自己弁護のネタも少なくなりつつあるこの頃、秋だからと言って感傷的な気分に浸っている場合でもないと気を引き締めつつ日々の業務に勤しんでもおります。
そんな感傷的な季節にも新店ラッシュのシンデレラグループ、その一員でありながらも何故かソラ恐ろしくも感じてしまうのは、多分、私の控え目な性質のせいばかりではないでしょう。しかし、よくよく考えてみれば、「限れられたパイの奪い合い」を展開するこの業界に於いて、私を感傷的な気分に陥れるいくつかの現象が、シンデレラグループの躍進の裏返しであるに過ぎないともまた言えるわけで、私が如何に恵まれた環境でこの業界を覗き見ているのかを今さらながらに思い知らされたりもします。
名月や 池をめぐりて 夜もすがら
同じく芭蕉の名句。美しい月に見とれてばかりもいられませんが、そんな余裕でこの秋をやり過ごしていけそうなのも、私が依って立つこの場所が、いつでも美しい眺めを約束してくれる、そんな場所だからなのかも知れません。
秋深き 隣は何を する人ぞ